5
僕はミチコとよく話す。初めて彼女と話したのは、三月の終わりか四月の始めだった気がする。
桜の開花も例年通り、構内の並木道には、自己主張の強い、白に近い薄桃色達のユニットが、やや控えめに、ぽつぽつと顔を出し始めていた。
数日もすれば、華やかに咲き乱れ、すぐに散り散りとなって、僕たちの目の前から姿を消す。
この頃から、僕の中二病、つまりエスケープ生活が始まった。不登校児よりマシだと思う。
教師に怒られた事も、同級生に咎められた事も、一度たりともなかった。
無意識のうちに習得したのか、生まれながらに理解していたのか、僕は、大勢の中で、無色透明になる術を知っていた。
受験期に近づくにつれ自習が増えた。
黒と濃紺で埋め尽くされた教室の中で、静かに息を潜め、僕自身を構成していた原子のようなものたちが、リミナリティを失い、少しずつ空気中に解体されてゆく感覚。
それと同時に、内面から湧き上がるのは、周囲が静けさに包まれ、無機質なグレーになり、反対に自分自身が、明確な輪郭線を持つ、カラフルで血の通った存在として浮き上がる感覚だった。
眠りにつくのと、目を覚ますのと、一緒に行っているのに近い。


image


See you:)