キワモノプッツン女優の真性M山中モナのブログ

カテゴリ: Text2008




「ヒロ君、突然こんな話してごめん。あたしね、初エッチの男の子の名前は、地球って言う人だったんだよね。
人は、地球の一部。やがて土に還るよね。まだ遠い未来だけど、あたしも、いつか、死ぬから。やがて地球に抱かれる。だから、始まりも終わりも地球なんだ。」

「へえ。」

「ヒロ君は、あたしに何がしたいの?」

「どういう事だよ。」

「いちいち、あたしがキレてもしょうがないんだけど。そういう事じゃないんじゃないかなって。上手く言えないけど、そういう事じゃないんだよね。」

「言いたくないんだけどさ、君の特徴はその肥大化した自意識だよね。肥大化した自意識の中で悶々と葛藤してるの。それで俺に楯突いて、2ちゃんねるで匿名でギャーギャー言ってる奴らみたいな事言ってくるわけ。」

「ごめん。」

言葉を失い、モモコはヒロの前から走り去った。ヒロはモモコを追わなかった。


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朝日を避けるために、勢い良くカーテンを閉めた。
布団に潜り込もうとした時、着信音が鳴り響く。母さんからだ。内容は分かってる。だから、絶対出ない。意地でも出るもんか。

ゴミだらけの部屋を見渡す。散乱したキャラメルコーンをめがけて、蟻の大名行列。
誰とも会話はしたくない。連日のようにかかってくる、友人からの説教の電話も、いい加減嫌になっていた。
登校中の小学生の、明るい声がする。苛々と共に、意識が落ちた。

充満した湿気と、ヒグラシの絶叫が、快適な眠りを遮る。
真っ暗な部屋の中で、パソコンのディスプレイだけが朗々と輝く。日付けは、三時間前に変わっていた。

チャリを飛ばしてコンビニに向かう。レジ打ちが、ちらりと俺を見る。覚えられてるよな、そりゃ。ここ数ヶ月、ほぼ毎日、深夜の三時か四時にふらふらとあらわれて、ピーチティーとソーセージを買っていくんだから。
少しずつ挨拶を交わし友達になった。話してみたらいいやつだった。
深夜のレジ担当は美青年。ネームプレートには「小林」と書いてある。俺と同じ名字だ。「別に。」とだけ答えた。小林くんは笑った。俺もつられて笑った。

それから俺達は、顔を合わせる度に、少しずつ、何かを深めて行った。俺は、小林くんに色々な話をした。子供みたいに、無邪気に伝えた、ぶちまけた。

夏の密度が限界まで膨れ上がった日の夜。
男二人、近所の公園で、大量に買い込んだ花火を消費する。
今夜はやけに静かだ。ヒグラシの大合唱さえも、遠く聞こえる。
「子供の頃はあんなにさ、全部がキラキラして見えたのに、」
「大丈夫だよ、君はまだサナギなんだから。いつか、立派な蝶になれる。何かになろうとしなくて良い。そのままの君が、一番いいんだ。」
小林くんの端正な顔立ちが、淡いオレンジ色に、ゆらりと照らし出される。
「怖いんだよね。人はいなくなるよ。」
線香花火の、最後の一本に手をつける。
今夜は本当に静かだ。花火の、ばちばちという音以外、何も聞こえない。
「今を、大切にね。生きてるからさ。」
「それから、お母さんと妹は、大切にしなさい。」

「え。」
ぽとり。
と、線香花火の先っちょの、まぁるくて、小さな火が、落ちた。

部屋に帰って、真っ先に、携帯の電源を入れた。途端に、おふくろからの電話。
「お父さん、もう限界だから。早く、帰ってきて。」
ヒグラシの鳴く声が、いつもより遠くに聞こえる。俺の代わりにレクイエム。

あの日以来、小林くんに会うことはなくなった。
コンビニに問い合わせてみたけれど、小林くんはバイトを辞めたらしい。住所も電話番号も知らなかった。

遺品整理のついでに、アルバムをぱらぱらと捲る。
一枚の写真の上で動きが止まる。ハタチそこいらの、丁度、俺と同い年の時の、親父の写真。

友達からの電話はもう鳴らない。代わりに毎日、面と向かって説教をされる日々。単位はどうするのとか、何やってんのとか。
ミルクティーを片手に俺達は談笑する。
最近は、ほんの少しだけ、空の、突き抜けるような青さに、苛々しなくなった。そして、俺に構うなんて暇な連中だなと、誰よりも幸せな俺は、誰よりも幸せな顔で笑うのだ。心から。




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See you:)

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